彼シリーズ「掟の橋」
目的地に向かうために見知らぬ橋を渡らなければならなかった。橋を渡ろうとすると「ピッピッ」とセンサー音が俄かに鳴りだした。そして空気の圧力のようなものによって鷲掴みにされると、彼はもといた地点まで引き戻された。欄干の文字には「掟の橋」とある。欄干はAIスピーカーになっている。立ちすくむ彼を尻目に犬が一匹通り越してゆく。
「犬が渡っているではないか?」
「彼は通行手形をお持ちです」
「犬なんていぬ方がマシだ」
今度は豚が頓狂な声をあげながら通り越していった。
「豚が追い越した」
「彼女は特別免許をお持ちです」
「とんと解しかねますな。とんでもない話だ」
「あなたは免許証をお持ちですか?」
彼はクルマのない時代に免許証とは「なんてこった」と半信半疑に思いつつもパスポートを取りだした。
「だめです」
「何がだめなのか?」
「パスポートではだめです」
「なぜ?」
「あなたが人間である証明書が必要です」
「みれば分かる。人間に決まっているじゃないか!」
「あなたと同じようにいう者は、あるいは物体も含めて沢山いらっしゃる」
「どうしたらここを通してくれるのだ」
「人間証明書を提示して下さい」
「俺がそれだ」
「無効です。通行を許可しません」
「なんてこった。人間が人間として通用しないなんて!」……
0コメント