彼シリーズ「懺悔」
近くの公園で子供たちの声が聞こえる。
「真ん中!」
「当たり!」
「安全!」
どうやら球を棒のようなものに当てる遊戯のようだ。それにしても妙な感を禁じ得ない。
「外れ!」
「自滅!」
「交代!」
「回転!」
心地よい一発音が響いた。
子供たちが一斉に歓喜の声をあげる。
「自宅経営!自宅経営!自宅経営!」と言いながらみんなが喜んでいる。拍手喝采だ!
英雄は、祝福の握手で迎えられている。
不思議に思い、隣に座っていた老人に訊ねた。
「一体どうしたんだい?」
「戦争だよ」
「え!」
「戦争が始まったんだよ」
「また負けるつもりか?」
「そうだろうね」
「なんと愚かな!」
「仕方がないさ。愚かになったのは事実だし、学ぶことすら忘れたのだから、仕方ない」
「あなたは教師ですか?」
「そうです」
「なんとかならなかったのですか?
こんなことにならないためにあなた方がいるのでしょうが!」
「うん。そうだが。教師たちが歴史と真理から離れていってしまったからね。情報と科学だけになってしまった末の必然的結果といえましょう。技術は進歩しましたが、肝心の人間が退歩してしまった。」
「………。」
老教師は、黙った。そして煙草の煙から想を得るかのようにこう言った。
「大人が利己主義になりすぎました。徳(とく)が得(とく)にすり替わってしまいましたよ。政治家は、スピード感をもって政策を執りおこなうと言いながらも空回りのスピードが早まるばかりでした。魚は頭から腐るというね。実際その通りになったのです。
ルソーではありませんが、子供には責任はありません。全部の責任は、われわれ大人にあります。あの子供たちを見てご覧なさい。健気ではありませんか?そう感じませんか?」
彼は同意するしかなかった。「おっしゃる通りです」。
老人は急に別人になったかの如く声を荒げて言った。
「いつの時代に於いても、犠牲になるのは子どもたちなんです!彼らはどこに忿懣をぶつけたらいいのでしょうか?なにも悪くないのに悪い環境におかれているのに気づかないでいるのです。これほどの犯罪行為はありませんよ!無抵抗に乗じた犯罪ですよ!」
「………。そのとおりだと思います。大人は大人であることの責任の重大性さえすっかり忘れている。あの子たちに懺悔しなければなりません」
彼は、子どもたちの前に歩みよると、跪きながら「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」と声がでなくなるまで叫び続けたのであった……。
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