道草

「どんな女が好きなの?」
「透明感のあるひとかな」
「無色透明ってこと?」
「そう何色にも染まっていないひと」
「そんな女いるの?」
「さあ。それはどうかな」
「透明人間じゃないよね?」
「まさか!そんなことはないよ」
「で、きみはどんな男が好きなの?」
「真面目な人よ」
「真面目な人はいいよね」
「あなたは真面目じゃないの?」
「かつては不真面目だったが、いまは真面目になりつつあるってところかな」
「どっちなのよ!はっきりしてよ」
「だから言ってるでしょ!昔はそれほど真面目じゃなかったけれども、最近は少しは真面目になったと思うって」
「だから、どっちなのよ。真面目なの?それとも不真面目なの?」
「なんで、そう白黒つけたがるのさ」
「だって、はっきりしないんだもん」
「経験が足りないんだよ。人生は白黒つけられないことのほうが多いはずだよ。たぶん」
「何がたぶんなのよ。偉そうなこといって!」
「仕方がないじゃないか。ほんとうにそう思うのだから」
「そうゆうのを屁理屈っていうのよ」
「どっちなのか聞いてるんだから、どっちなのか素直に答えればいいんだわ」
「どっちと言われてもなあ。困るんだよな。提案なんだけど、その話はとりあえず棚にあげておくというわけにはいかない?」
「いやよ。棚にあげて、棚からぼた餅なんて言いだすに決まってるんだから」
「それは誤解だよ。絶対に」
「保証できる?」
「保証するよ」
「なにを保証するのよ」
「だから……。なんだっけ」
「もういいわ。あきれてものが言えない」
「なんでそんなに怒るの?」
「あたりまえでしょ!怒ってるんだから」
「え!怒ってるから怒ってるの?」
「そうよ」
「それはわからないな。さすがに」
「なぜ?」
「怒ってるから怒るというのは、いささか矛盾している気がする」
「また屁理屈をいうの」
「真面目に答えているんだけどな」
「違う!違う!不真面目よ」
「困ったな。だけど、掴みどころがないという意味で、きみは十分透明だよ」




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