Autnmn Leaves
その若い新進気鋭のジャズピアニストは、拍手喝采の渦巻くなか華麗な演奏を終えた。
そこに紅潮した赤ら顔の老紳士が駆けよってアンコールを求めにくる。蒸気機関車のようないまにも沸騰しそうな老紳士は汽笛を鳴らした。
「Autnmn Leaves!」
若いジャズピアニストは、何ごともなかったかのように有名なテーマを軽快に弾きはじめた。
老紳士は、じつに満足そうな面持ちで耳を澄まして聴き入っている。アドリブは絶句するほどで、影のある不気味なフレーズが散りばめられ、何人をも陶酔させる魅力があった。老紳士は、狂喜しながら太陽のように輝いていた。その太陽の光は暗い会場全体を照らし屋外の明るさに匹敵するかそれを凌駕するかに思えた。まるで興奮する白熱灯みたいだ。これこそ私の求めていたジャズだ!と叫んだ。
鍵盤の上を疾走するジャズピアニストはどこにアイデアを得たのだろうか?
もちろん、老紳士の頭である。その頭部は妙なるアドリブの着想を得るのに十分すぎるものだった。老紳士の深い秋の頭部は、憂愁な楽想を表現するのにこれほどの材料はないものと言えた。残念な頭部の枯葉は、その残念さの故に美しい旋律を奏でることに貢献したのであった。
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